大門通りの紫陽花も見頃。気がつけば6月、なんですね。
小梅さんのお茶の旅が終わり、どこか腑抜けたように弛緩した空気が流れる茶荘の朝。ほっとくと一日ぼーっとしていまうのでよいしょ、と帳場から移動してお茶を淹れます。小梅さんが留守なので飲みたいお茶を選びました。
「奇種」っていう名前の岩茶です。
ちょっとややこしいのですが、「奇種」は「大紅袍」「水仙」「肉桂」以外の『その他』という意味で広義に使われる事もあれば、武夷山野生在来種の総称として使われる場合もあり、「奇種」「単叢奇種」「名叢奇種」「名種」という岩茶の分類方法の一つにも使われます。他にも様々な分類法に使われる言葉なのですが、今から飲む「奇種」は野生有機の岩茶で、品種名が「奇種」だという事です。2012年のお茶。祝先生が大事に取っておいたものを分けてくれました。
しっかり目の焙煎。中火と足火の間くらいでしょうか。 4年近く経つので火香は落ち着いています。
一煎目でまず感じるのは干し草のようなちょっとひなびた香り。以前に扱っていた老水仙のような、どこか懐かしい記憶を呼び覚ますような香りです。甘みは強くありません。というか、ほとんど主張してきません。華やかさともフルーティともあまり縁が無く、それでいてしっかりとお茶らしさの余韻が残るお茶です。
ビールを飲まない方にはピンと来ないと思いますが、ベルギービールとかプレミアムモルツじゃなくて、瓶入りのラガービールみたいな感じです。そういや番頭、ビールも甘みが強いのはだいたい苦手です。
巌水仙、という番頭が好きな岩茶があります。こちらも甘みや華やかさとは無縁のお茶です。 もともと甘みというものがあまり得意でない番頭は、こういったじんわり味わい深いお茶や、上撰矮脚のようにひたすら力強い岩茶が好みです。どっしり系でも肉桂は甘みとボディの強さでちょっと飲み疲れる時があるので、同じ強いなら甘みが主張しないほうが「いっぱい飲める」のです。
上撰矮脚はいつだって美味しくて、この奇種もそれに劣らず好みでもありますが、残念ながらこの手の「甘くない」番頭好みのお茶はどうした訳かお値段もかなりの辛口です。華やかだったり甘みが強い品種に人気が集中するからでしょうか、どうしてもそっちのほうが種類も多く、沢山作られているので選択肢が多いんすね。
じゃあどうすりゃいいのよ、と言われると辛いのですが、そんな方には「人形町」がお薦めです。ボディは軽めでやや優しいブレンドの岩茶ではありますが、さっぱり感と甘みが主張しないという点では人形町は飲みやすいお茶だと思います。コストパフォーマンスは群を抜いてますし。
奇種。ちょっとですが仕入れました。