
楽あれば苦有り。魚の目にイボコロリ。

分厚い束になって訪れた現実からちょっとだけ逃避しよう、という事で開店準備の前にお茶の時間にしました。

久し振りに紅茶。
紅茶の時はどうしてか鳳慶や孟宋古樹といった雲南のお茶を無意識に選んでしまうんで、今朝はあえて宜興の紅茶にしました。
宜興工夫紅茶。「工夫」というのは『手が込んだ』とか『手間をかけた』くらいの意味だとお考え下さい。政和工夫、担洋工夫等々、他にも工夫紅茶と名の付く中国紅茶はありますが、いずれもあまり日本で見かける事は多くありません。というか、最近中国でも見る機会が少ないのかな、と思います。

その名の通り、江蘇省宜興で作られている紅茶です。宜興といえば言わずもがな、紫砂壺を初めとする陶器の一大生産地です。中国茶の世界でも「宜興」といえば『茶器』であり、『茶葉』ではありません。

もともと宜興は緑茶でも有名でしたが、緑茶に至っては紅茶以上に見かけません。忘れられた存在、に近いかもしれません。もっとも緑茶は競争が激しいジャンルなので、宜興に限らずかつての茗茶が今はほとんど…なんてのはそれこそザラにありますけど。
ちょいと短めに一煎目を出しました。じっくり長めにおいても渋みやえぐみは出にくい紅茶なのですが、今朝はそんな気分だったんで。
鳳慶や雲南金毫のようなこってりとしたカラメルっぽい甘みではなく、すーっとクリアな甘みがします。孟宋古樹のような晒青紅茶と違い、しっかりと作り込まれた茶葉は繊細でいながら頼りなさはありません。これ、もっとちゃんといっぱい作ればいいのになあ、って思います。
もともとの生産量が多くない他に、「地産地消」の紅茶だっつうのも流通量が少ない原因の一つです。↑で楊さんが淹れてるのも宜興紅茶。こんな風にお客人に淹れるだけでなく、作陶家さん達は制作活動中にアホほどお茶を飲みます。人にもよるでしょうが、楊さんはガソリンかっ!って思うほどいつ見ても傍らにお茶を置いています。

アトリエ兼ショウルームの大きな茶座にもいつも宜興の紅茶は置いてあります。そんな感じで地元で愛飲されていたり、お客さんへの贈り物に使われたりするもんで余計に出回らないのです。特に出来の良いものは。宜興の町中で売られているのはいわゆる「普段使い」の茶葉がほとんどですんで。

紅茶が英語でブラックティーなのがよくわかる茶葉です。一葉一葉がしっかりと揉捻された手間のかかった茶葉は、素材のポテンシャル勝負の雲南紅茶とはかなり違います。雲南紅茶が剛速球が持ち味だとすると、工夫紅茶は丁寧にコーナーを投げ分ける投手って感じです。宜興だけに技巧派…なんちて。

2煎目以降は長めに出します。さっぱりとした甘みと爽やかな果実香を楽しみながら、のんびりと美味しい現実逃避を続けます。
もうちょっとしたらクロネコさんが縁起でもないえげつない金額の領収書をくわえて嬉しそうにやってきます。あ〜あ。