
忘れた頃に出てくる小梅さんのとっておき茶壺。
そのうち茶荘で使うつもりだったのか、それとも勉強用にしまいこんであったのか。経緯はともあれそんな茶壺が忘れた頃に出てきます。
単に自慢したいが為に出してきたんでない事はなんとなく判りますが、それじゃあ何の為なんすかね。
ともあれ、画像撮ってブログに出すように言われたんでとりあえず撮るだけは撮りました。

3つの茶壺。
いずれも周志雲さんの作です。それぞれ時期は違えどもうとっくに売り切れていた筈のいわば「残党」か「忘れ形見」みたいな存在です。
土の周さん、と呼ばれた宜興の土のスペシャリストでもある周志雲さんらしく、いずれも見事な艶と肌合いの土を使っています。在庫がふんだんにあって日々茶荘の棚で見慣れていた時よりも、こうして久しぶりに見るとあらためてその土の良さに惚れ惚れとします。

まずは桃花泥の復古。

盆栽の鉢にも珍重される桃花泥はやや段泥がかった紅泥、といった色合いの泥料です。焼成温度によって発色は異なりますが、この復古は紅泥よりの明るい色です。

光が当たるとより朱泥っぽく明るいオレンジ色がかりますが、朱泥系の紅泥よりは落ち着いた色です。

容量約200ml。見た目は小ぶりで掌サイズ。使い勝手のよいサイズです。たっぷり淹れるというより、2〜4人分の小ぶりな茶杯に丁度良い大きさです。
細部まで奇をてらわない教科書通りのフォルムは志雲さんの持ち味の一つ。志雲さんはデザインに独自性や解釈をあまり加えず、オーソドックスな形状の茶壺はあくまで基本形に忠実に作ります。この復古も把の太さや觜のカーブなどが几帳面に再現されています。

如意復古は志雲さんご自慢の烏泥の美しい漆黒の艶が一番よく引き出されてる茶壺です。如意復古は大紅袍泥、紫泥とこの烏泥で3部作のようになっていましたが、一番目を惹きつけるのはこの烏泥だと思います。

画像にしたら少し赤みが入ってしまいましたが、実際に目で見るともっと真っ黒です。烏の濡れ羽色、とか漆黒の夜の海、みたいな吸い込まれるような黒色です。艶があるようでマット感もある、不思議な肌をしています。
約230mlと若干大きめ。個人的には生茶なんかに使いたい茶壺です。
焙煎強めのお茶に使うと少し赤みを帯びた肌合いになります。以前にお買い上げになったお客さまが育てたこの烏泥の如意復古がそんな感じに赤みがありましたが、それはそれでとても美しかったのを覚えています。

こちらは果園壺。
ふくれっ面のようなプクっとしたフォルムがどこか剽軽。緊張ではなく緩和の妙がある形状の茶壺です。

角度や光線の加減で紫泥か清水泥っぽく見える場合もありますが、やや茶色っぽいこの土は老段泥。志雲さんの一連の作品の中では異色の泥料です。単に貴重でもったいないからあまり使わないだけかもしれませんが。 表面が少しザラっとしていて、強い黄色の粒が混ざっているようにみえる少し鄙びた肌合いです。

オーソドックスな形状ですが、いわゆる伝統的な名のある形そのものではありません。弧玉壺に少しアレンジを加えたのかな、というふうにも見えます。
容量約260ml。胴体が丸い分けっこうな量が入ります。熟茶、生茶、岩茶とお茶を選ばない色と形状。お気に入りのお茶を時間かけてたっぷり飲む、なんて時にはぴったりだと思います。

ブツ撮りが終わったんで小梅さんの元に戻します。茶荘の棚にならぶのか、それとも小梅さんの開けずの扉の裏側に戻すのか、もしくは茶座の茶盤の上でお茶淹れにいそしむのか。行方はイマイチはっきりしません。気になる方、手に取ってご覧になりたい方は茶荘にて小梅さんにお尋ねください。