
ね、綺麗だっしゃろ?
番頭ざんす。

楊琴さんの茶壺です。名前は「前程似錦」。
交互に配された凹と凸の筋を持つ、いわゆる筋紋壺です。

泥料はブルーイッシュグレーの天青泥と落ち着いた朱紅色の大紅袍泥。どちらもちょっと特別な土です。
最初に入ってきた大紅袍泥のものはこれよりかなり大きめでした。その形状をもとに天青泥で小ぶりに、というリクエストで楊さんにこさえてもらったのが天青泥のほう。その後やっぱり大紅袍泥バージョンも小ぶりで欲しい、とこれまた楊さんに依頼して焼いてもらったのが今の大紅袍です。

容量は天青泥が約220ml、大紅袍泥が約200mlです。大紅袍が一回り小ぶりなのは泥料の収縮率の違いによるものです。朱泥と同じで大紅袍泥も収縮率が他の泥料と較べて大きい=焼くといっぱい縮むので。並べて見ると天青が兄さん、大紅袍が妹って感じですね。厳密には年上の姉さんがいたので3人きょうだいですね。

精緻な作りです。筋紋壺には表面だけ筋が通っていて縁と袴はツルツルに丸いままのものもありますが、本来はこんな感じに縁も袴も筋紋が延長されてます。平仄が取れているのでこちらのほうが見ていて気持ちが良いのは勿論ですが、言うまでも無く縁と袴をピタっと合わせるように作るのは非常に高度な技術と手間と時間が必要とされます。歩留まりも悪くなりそうだなあ。

よく見たらてっぺんの珠の部分まで…。

把にも、觜にも連続した筋が通っています。
茶農さんのお茶作りもそうだけど、作陶家さんの製陶も「そこまでせんでも」くらいに妥協をしません。というか、そういう妥協をしない人達とお付き合いさせていただいているのですが。「こんなもんでいいでしょ」とすぐにタカを括る番頭のようなタイプは物つくりを仕事にしないほうが世の為人の為、そして自分の為でもあるんでしょうねえ。

「前程似錦」は中国の四字熟語から付けた名前です。なんて読むのかなあ、と迷った挙げ句番頭は「ぜんていにきん」と呼んでますが、日本語風に音読みすると「ぜんていじきん」になるようです。発音をカタカナにすると「チエンチョンスージン」…自信ないけどこんな感じです。
意味は『将来が錦のように輝かしく、素晴らしいものである(ように)』という言うならば門出を祝う言葉です。まんま「前途洋々」と同じっすね。
日本では前途洋々のほうが定着しましたが、中国では前程似錦は例えば卒業生に贈る言葉であったり、遠い地に引っ越す友への言葉だったり。順風満帆も類義ではありますが、ニュアンスとして前程似錦は「別れ」を伴う場合が多いように感じます。

四字熟語は茶壺の名前にはよく使われます。平安富貴であったり青梅竹馬だったり。波瀾万丈とか一石二鳥なんてのはさすがに無いとは思いますが。
天青と大紅袍。どちらも茶荘の棚にございます。どうぞご覧くださいまし。